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書店の店頭から本が売れなくなったので、書店として何か対策はないのかといったような要請 が当てられた。当店でも採算を維持し得ない状況がつづいている。しかし自分の 書店や自分の出版社のことだけを考えて打開しようとしてもうまくいかないので はなかろうか。それというのも、現在売れないのは本だけではないからである。 景気の低迷という言い方をすれば日本経済、ひいては世界経済全般にわたる問題 になってしまう。書店では景気の波に浮いているしかないが、出版社ではそうし た問題を解決できるような出版物を世に送り出すことができるであろう。時代が 必要とするテーマ、そしてそれを解決に導く内容、したがってそれ向きの研究書 や解説書が出版されていないのが現状なのであろう。「資本論」は膨大な参考文 献から生まれたのだし、「一般理論」も閉塞状況から生まれた。しかし現代には そうした書物も現れないのだから、それに関する解説書もない。現代思想は異議 申し立てをしたが、自らを取りまとめる事もしないまま年をとってしまった。熟 慮しない情報ばかりが駆け巡る状況の中では右往左往するばかりで、何かが形成 される前に泡のようにはじけてしまう。要するに泡のような本が市場に氾濫して いるのではないか。研究者もちょっとしたベストセラーが出ると出版社はつぎつ ぎと出版を要請し、落ち着いた研究もできずに歳を重ねてしまう。 本の流通はどう進化したのだろうか。もともと流通は大量の製品を効率よく移 動させる装置であるが、ここで注意しておくことは大量という物であろう。それ は講談本や読み物から始まり、雑誌やコミックに対応するような物流装置として 展開してきた。この装置には多品種、小部数の単行本はふさわしくなかったので はなかろうか。物流が進化するにつれて齟齬が拡大してしまったのかもしれない。 書店の数が増えたのも大量の商品が流れての事である。小部数の書籍がこれらの 書店にいきわたるわけもなく、どの書店でも大部数発行の雑誌や文庫、ベストセ ラー作家の単行本といった類である。一般読者もそうした状況になれてしまい、 難しい本が書店においてあるというイメージが希薄になってしまう。こうした習 慣から、読者も自分で考える本などよりは、わかりやすい、面白い、感性に即効 的に刺激を与えるものに興味が移行してしまったのであろう。 出版社も規模が大きくなりそれを維持発展させるために大量生産販売そして、 当たらなければ次々と大量出版せざるを得なくなったという事情もあろう。客観 的なデータを提示しているわけではないのでこれらの事柄も想像の域を出ないの であるが、とりあえず大局的な場面への管見としておこう。次回から少しずつ本 を扱う現場へと視点を移してみよう。 佐野衛(東京堂書店 神田店) |