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家族という視点
精神障害者と医療・福祉の間から
滝沢武久 著
2010年10月15日
定価:1,800円+税
四六判・並製・208ページ
ISBN:978-4-87984-286-2
在庫あります

内容紹介

精神障害者家族として、ソーシャルワーカーとして問い続けた、こころ病む人と共にあることからはじまる、共にあることへの問い。

本書の目次
推薦の辞

はじめに

第一部 精神障害者家族のライフストーリー

第一章 精神科医療との出会い
 父の死と兄の発病
 精神障害者家族という負い目
 保護義務と生活との間で
 兄の上京と長期療養へのあゆみ

第二章 家族として、ソーシャルワーカーとして
 私の精神科ソーシャルワーカー修業時代
 保健所精神衛生相談員として
 精神医学界の数々の論争
 職業リハビリテーションの試みへ
 家族会活動との出会い
 作業デイケアと「青い芝の会」の活動から学んだこと
 西欧諸国の精神障害者医療と福祉

第三章 「精神障害」から何を学ぶか
 精神科リハビリテーションのありかた
 国際障害者年決議とその運動の中で
 兄の退院と生活問題
 精神科病院・福祉施設における集団生活の問題点とは
 精神障害者を支える福祉制度と社会資源
 兄の人生とは何だったのか
 「病い」の牢獄から「障害」という関係へ


第二部 精神科医療・福祉の現状と課題

第四章 精神障害をめぐる歴史と制度
 「精神病」「精神障害」という牢獄
 私宅監置から強制入院へ
 精神科病院の役割とは
 刑法第三九条(心神喪失・心神耗弱条項)と精神障害者の人権との矛盾

第五章 家族会運動の役割
 知ることの意義
 家族をとりまく状況
 回復者運動と家族会活動
 家族が家族会に出会うとき
 家族会の機能、組織、運動論
 リーダーの誕生と活動のスタイル

第六章 家族の抱える困難
 保護義務の問題点?患者と家族の桎梏や確執からの解放に向けて
 保護義務責任判例の背景
 家族支援から社会支援へ
 精神障害者を持つ家族・市民生活の現実
 入院患者家族の生計費の実態

第七章 暮らしをとりもどす
 退院後のケアの必要性
 開放治療の試み
 福祉計画としての「住居」と「職業リハビリテーション」の位置づけ
 社会的ケアの萌芽?精神保健福祉法改正
 障害者自立支援法制定・施行における混乱
 精神の障害に視点をおいた援助のあり方
 治安維持思想から医療福祉の確立へ

提言
精神科医療関連年表
参考文献
あとがき
解題 (山田富秋)


書評

 元宮城県知事、現在慶應義塾大学総合政策学部教授の浅野史郎さんが寄せてくださった書評です。(2011年1月18日)

 この著作で、滝沢は、「精神障害者は、現代日本の『難民』となっていないだろうか」という強烈な問題意識から、今の日本でどのような対策が必要かを提言している。滝沢の11歳上の兄は、統合失調症と診断され、長い闘病生活を送り、地域の中での生活を模索しながら完全には果たさず、最後は、休息入院中に心筋梗塞で亡くなった。その兄の人生はなんだったのか、もっとしてやることがあったのではないかという自責の念も、その後の滝沢の活動を突き動かす要因になったであろう。

 兄に対する心配りと並行して、滝沢は40年以上にわたり、一貫して精神障害者の問題に関わり続けた。ソーシャルワーカー(保健所精神保健相談員)として、地域内での精神衛生相談と家庭訪問業務に携わった。その後、全国精神障害者家族会連合会の事務局長、常務理事、専務理事として、15年間、精神障害者の処遇改善のための制度改革要請活動の中心として活躍した。現在は、地元神奈川県で地域作業所やグループホームを共同運営する社会福祉法人、特定非営利法人の理事長として、精神障害者の地域生活を支えるサービスを提供する仕事に関わっている。

 自分の兄が精神障害者として送らざるを得なかった不本意な人生に心を痛め、ソーシャルワーカーとして、精神障害者の抱える悩みを実感し、家族会の事務局長として、精神障害者の家族の悩みを共有しながら、滝沢の問題意識は研ぎ澄まされていった。本書では、精神障害者対策において、何が問題であるのか、どうしてそういった問題が生じているのかを、わかりやすく、説得力をもって展開されている。

 我が国の精神科医療政策が、精神疾患者の治療に優先して、社会防衛的見地から、隔離・保護、監視が中心であり、その一環として、家族の保護義務を前提として成り立っていたことが、精神障害者の処遇の不十分さ、家族への過重な負担ということで、今に引きずっていると滝沢は分析する。さらに、精神障害者への対応を医療という観点からだけ見て、治る、治らないという視点を強調しすぎる精神医療のあり方が、精神障害者の自立への歩みを阻害していると喝破する。精神疾患としては治ったように見えても、退院して元の生活に戻れなければ、治ったことにならないし、また入院生活に逆戻りということになってしまう。逆に、病気として治ったと言えなくとも、地域生活を送ることにより、治ったのと同じような状態になることもある。これは、病気を社会が治すという意味で、社会的治癒と滝沢は呼ぶが、そういうことは十分にあり得ることだし、精神障害者の処遇として、関係者が心得ておくべきことだろう。

 本書からは、滝沢の人間観、人生観がいかなるものであるかが読み取れる。その人間観に基づいて、精神障害者にとって何が必要なのかの議論が展開される。その人間観とは、精神障害者に限らず、どんな人間も一個の独立した人格として、生きていることの意義を実感できる生活を送る権利があるということである。精神障害者が持っているハンディキャップは、一つの個性である。いかなる人も、それぞれの個性を持ちながら、生活を送っている中で、自己実現を図っている。精神障害者の持つハンディキャップも一つの個性と考えれば、地域の中で普通の生活を送ることは可能であり、望ましいことである。ただ、そのハンディキャップゆえの生活しにくさを補うための手立てさえ用意されればいいだけのことである。だったら、そういった支援がなされるような制度や施策を用意すべきである。滝沢は、まさに、制度改正を求める要請活動を展開し、また自ら、作業所やグループホームの運営をしている。

 本書の中では、精神障害者を家族で支えることの問題点も指摘されている。高齢化した家族では、精神障害者の生活を支えきれないというだけではない。家族との関わりが濃密であることが、精神障害者の病状悪化につながるからである。家族に代わって、地域の資源が精神障害者を支えなければならない。そういった施策として、身体障害者雇用促進法並みの雇用対策がとられることが必須であると滝沢は主張する。住宅対策、所得保障対策も必要である。福祉の対象としては、最も遅く仲間入りとなった精神障害者であるので、他の障害者に比べて、支援施策という点では、遅れたところがある。しかし、一応、福祉の制度の対象にはなっているので、これからの展望は開けている。あとは、どれだけ急いで施策を整備するか、どれだけ完全なものにするかである。

 こういった提言は、すべて、精神障害者が一人の人間として、自己実現を図り、生きてきたことの意義を実感できるように願うところから発している。そのことが、本書では、実にわかりやすく述べられている。これからの精神障害者対策のあり方を考える上で、最適の著作である。


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