若き日にブラジルに渡り、かの地で生き抜き、言語的孤立の中で日本語で書き続けてきた孤高の移民作家・松井太郎。その代表作を編みました。
『うつろ舟──ブラジル日本人作家・松井太郎小説選』
松井太郎 著 西成彦・細川周平 編

この本の内容
ブラジルに日本人移民が渡ってから100年を超えました。日本人移民とその子孫は次第にブラジル人に同化し、ブラジルでの日本語話者の人口も減少の一途をたどっています。そうした「日本人」「日本語」が今にも消えようとしている状況を、松井さんのペンは物語に写し取っていきます。その作品は、いま日本国内で(「日本人」「日本語」の存在を自明視して)書かれ、読まれる日本語の小説とは、異質の迫力を持っているように思われます。
本書には5編の小説を収録しました。
・「うつろ舟」……松井太郎さんの代表作というべき中編です。ブラジル奥地の大河流域を舞台に、日系2世の神西継志が生き抜く力強い生が描かれます。
・「狂犬」……父の代からの養鶏場を営んでいる東吾・君江夫妻。ある日東吾は、かつて関係を持ち、子ももうけた女アンナが、子連れで村に舞い戻っているとの報せを耳にします……
・「廃路」……ブラジルの僻地でつつましく暮らす老夫婦。不幸な事故で息子を失い、入植以来築き上げた財産も失って、余裕のない生活を余儀なくされている彼らのもとに、ある見過ごし難いニュースが飛び込んできます……
・「堂守ひとり語り」……内陸部の荒地セルトンを舞台に語られる、二人の男の競い合い、嫉妬にからむ復讐の物語です。
・「神童」……その聡明さから神童と呼ばれている少年アキオ。病に斃れた母親を偲んで、アキオは精魂こめて母親の彫像をこしらえますが……
巻末に、編者のお二人による解説(西成彦:「外地日本語文学の新たな挑戦─松井太郎文学とその背景」、細川周平:「辺境を想像する作家─松井太郎の世界」)を収録しています。
著者・松井太郎さんについて
松井太郎さんは、1917年神戸市生まれ。19歳の時、一家でブラジルに渡り、サンパウロ州奥地で農業に従事。ブラジルの手強い大地と気候に、数十年間対峙してきました。
還暦を迎えるにあたり、隠居(ご子息が、サンパウロにスーパーマーケットを出店されたそうです)。時間的余裕ができたので、生来好きだった文芸創作を開始。現在までに中短編20作品超を執筆し、ブラジルの日本語新聞等に発表してきました。ブラジル日本移民百周年であった2008年には、集英社発行の「すばる」(8月号)で、その短編「遠い声」が紹介されています。
松井さんは90歳を越えた現在も、創作活動を続けていらっしゃいます。書きたい材料はまだまだあると、おっしゃっているそうです。
この本のデータ
- 書名:うつろ舟
- 副題:ブラジル日本人作家・松井太郎小説選
- 著者:松井太郎
- 編者:西成彦・細川周平
- 判型:四六判(127×188mm)
- 製本:並製(ソフトカバー)
- 頁数:312頁
- 価格:1900円+税(税込み1995円)
- ISBN:978-4-87984-285-5 C0093
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